2004年7月27日

PF・KENS合同研究会サマリ

KEK4号館において2日間にわたって開催されたPF・KENS合同研究会「ナノサイエンス・テクノロジーと放射光/中性子反射率法」が盛会のうちに終わりました。たいへん熱心で活発なご討論を頂きまして、どうも有難うございました。以下はサマリ(案)(プロシーディングス掲載予定)です。

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2004年7月20日(火)~21日(水)の 2日間、PF・KENS合同研究会「ナノサイエンス・テクノロジーと放射光/中性子反射率法」(Synchrotron radiation and neutron reflectometry for nano sciences and technologies)がKEK4号館セミナーホールで開催されました。PF懇談会X線反射率ユーザーグループのメンバーを中心に、44名の方が受付で参加登録をされました。プログラムを後ろにつけておきます。同種の研究会はほぼ毎年開催されており、4回目を迎えた今回では、レギュラーな講演時間が1件40分とやや長めで(20分の講演も一部あるが)、休憩や食事の時間もディスカションができるように比較的ゆったりであり、懇親会の終わった後に夜の部として1件5~10分の話題提供を受けて行う討論企画があること等、反射率ユーザーグループらしいディスカション重視のスタイルが定着してきました。

X線反射率法といえば、全反射現象を利用して薄膜・多層膜の層構造・界面構造をルーチン分析する方法として知られています。各層の厚さや各界面のラフネスをパラメータとするモデルをもとに解析し何がしかの議論をしようという手法は、金属・半導体からソフトマテリアルや生体系まで、広範な分野で用いられてきており、個々の応用における解析の流儀に違いが残っていることや、標準化の議論が未整備であること等を脇におけば、すでに十分に establish された技術であると考えられます。報告されている反射率法の応用の多くは、X線管等の実験室系X線源を用いるものですが、放射光や中性子を用いることにより、反射率法をもう一段上の解析ツールとしてアップグレードして活用できる可能性があります。そのような高度利用により、社会的ニーズの高いナノサイエンス・テクノロジーの課題に積極的な役割を果たせないか、という点に、放射光・中性子共通の問題意識があります。

今年の研究会でも、反射率法の高度化への実際的な道筋と、それによって可能となる一層高度で挑戦的なサイエンスへのアプローチが主な関心事となりました。具体的には、特に、放射光の利用については、面内均一な試料の安定・静的な層構造を暗黙の前提とする現在のX線反射率法に対し、不均一試料の場所の違いを理解しようとし(微小領域のX線反射率法、μ-XR)、また不安定構造や試料環境パラメータを積極的に変化させたときの変化を議論しようとし(時間的に高速なX線反射率法、Q-XR)、更には、光源の高輝度性、ビームの高品位さを生かして反射率スポットの周囲に現れる散漫散乱(反射小角散乱)データをも含めた統合解釈をもとに情報の質を変えること(拡張されたX線反射率法、E-XR)を提案し、これまでの反射率法とは異なる応用展開をめざそうとしています。中性子の場合も、J-PARC大強度パルス中性子源の登場等により、サイエンスの質を変える機運が高まっています。諸外国の状況を見ても、ワンパターンの反射率実験から脱却する方向が鮮明になりつつあり、わが国としても、技術開発、サイエンスともに、いっそうチャレンジングな取り組みを強めてゆきたいところです。

他方、ユーザーグループでしばしば議論されてきていることですが、いわゆるごく普通の反射率測定とそのデータに対するワンパターンの解析ですむようなサイエンス(あるいは産業応用を含む社会的な応用)であっても、もし、非常によく洗練されたビームライン運営体制の下で、きわめてハイスループットなルーチン解析を実際に達成することができれば、上記の高度利用とは違った意味で、ナノサイエンス・テクノロジーへの相当に大きな貢献が期待されます。また、私たちが、過去4回の研究会を通し、重視してきたもう1つの側面は、反射率法の概念や解析法の基礎にかかわる諸問題に関するディスカションです。例えば、「ラフネスとはなにか」とか、「極端に薄い層における界面とはなにか」といったこと、あるいはパラメータフィッティングへの過度の依存がもたらす弊害とそれを打開するための指針等について、さまざまなデータや独自に開発された解析ソフトウエア等の事例を通して議論を深め、共通の財産を増やす努力を続けてきています。

反射率を共通のキーワードとし、放射光と中性子をできるだけセットにして研究内容を交流する試みは、私たちの場合、2001年に開始しましたが(このときは初めてKENS見学をしました。そのこと自体がとても新鮮だったことが思い出されます)、PF・KENS合同研究会になった今回が中性子ゆかりの方が最も多くなった研究会であろうかと思います。またX線・放射光のユーザーが中性子反射率計 PORE を活用し、中性子のデータとの対比や磁気構造の解析に取り組んでいる話題等が報告されたことは、以前の研究会にはなかった進歩です。放射光・中性子連携については、特に、KEK KENS スタッフの皆様の熱心なご努力に依るところが大きいのが現状ですが、今後、具体的な研究成果の面で前進することにより、放射光と中性子の両方をこだわりなく上手に使いこなす新しいユーザー群が登場することを期待したいものです。そのためにも、必ずしも現時点で反射率法を使っておられなくても、薄膜の表面、界面に関連する重要な研究をされている研究グループに、もっと参画していただけるようにしなくてはいけないと考えています。

研究会を終え、2日間の講演全体を振り返ると、異分野への啓蒙・解説に偏りがちな講演が散見されたことが多少気になります。もちろん、新しい人々を迎える観点ではそれも有意義ですが、すでに4回目の研究会であり、また放射光、中性子ともに新ビームラインの提案や関連する予算要求等も現に行っている状況を考慮すると、本来は、もっともっと未来志向のいろいろな新しい試み、特に困難な実験へのチャレンジの最新データ、いままでわからなかったことをわかるようにするためのアイデアや工夫、準備状況等の報告が求められるところではないでしょうか。次回以後の研究会では、企画に思い切った工夫が必要であると感じました。他方、1日目の夜の討論企画で話題提供をいただいた内容の多くは、新しいサイエンスの芽を含んでおり、充実したディスカションを満喫することができました。討論企画はもともと多くのテーマをサーベイするのに効果的ですが、そのなかで見出された重要なトピックスを、いろいろな機会にていねいに深めてゆく努力が、今後の課題であろうかと思っています。

最後に、本研究会のさまざまなサポートをしてくださった物質構造科学研究所事務室の皆様はじめ、KEK職員の皆様に深く感謝申し上げます。
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