quick反射率シンポジウム報告
春の応用物理のシンポジウム 「X線・中性子による quick 反射率法の展望 - 表面や埋もれたナノ構造の変化を追う」(at 埼玉大学)が盛会のうちに終わりました。ご協力有難うございました。以下は、「応用物理」に送る予定の報告です。
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X線および中性子による反射率法は非破壊に薄膜・多層膜の表面や埋もれたナノ構造の情報を与える手法である。通常、平行化させた細束ビームにより微小角域で精密なθ/2θ走査を行う方法が用いられており、研究対象が安定な系、あまり変化しない系に限られていたが、最近、こうした角度走査を行わず、きわめて迅速にデータを取得する技術への期待感が高まっている。本シンポジウムでは、「素早い」「時分割」あるいは「試料をほとんど動かさない」反射率法および関連技法の技術開発動向と応用を展望したいという問題意識を背景として開催された。
桜井健次(物材機構)は、quick型X線反射率法の技術としては、既に実用段階にあるエネルギー分散法(白色X線を固定角度で入射させ反射X線をエネルギー分析する技術)の他、広い角度分散を持つ単色X線を同時に入射させる方法等があり、最近の要素技術の革新、とりわけ検出器の進歩により、今後数10ミリ秒~数10秒レベルの迅速測定が広く行われるようになるという見通しを述べた。川村朋晃(NTT)は、SPring-8 の兵庫県ビームラインにおいてInP系ナノワイヤーの構造形成過程のその場観察をX線反射率法の測定モードの1つである GISAXS(Grazing Incidence Small Angle X-ray Scattering)によって行った事例を紹介した。田渕雅夫(名大)は、InAs(001)基板上にエピタキシャル成長させたGaInAsP 層界面の原子層レベル組成制御を(002)ブラッグ反射ピーク裾の強度プロファイル解析により行ってきた研究成果を述べ、今後デバイス開発に有用な技術として発展させるためにquick 型反射率法と同等のコンセプトを導入する計画であることを予備実験の結果とともに報告した。海津利行 (原研、高橋正光の代理)は、SPring-8 の原研ビームラインにおいて InAs/GaAs(001)量子ドット全成長過程をX線回折の逆格子マップにより格子定数の分布やドットの高さをパラメータとして8秒単位で連続モニターした結果や成長終了状態で15分程度の測定時間で精密解析した結果を示した。
矢野陽子(学習院大)は、液体表面等、動かすことのできない試料を対象として反射率測定を行う際に考慮すべき点を指摘し、気液界面の解析ではintrinsic なラフネスはほとんどないが、表面の熱揺らぎによって生じるCapillary waveの影響が大きく、その散漫散乱の取り扱いが重要であると述べた。飯村兼一(宇都宮大)は、水面上の有機単分子膜の反射率および面内回折について、SPring-8 での研究データのほか、海外での豊富な研究事例を紹介し、温度変化による相変態等、quick 型反射率法の応用により飛躍的進展が期待される研究テーマが多数あることを報告した。林好一(東北大)は、エネルギー分散型反射率法について、白色X線ビームは小さくしてもなお十分な強度が得られることに着眼し、微小領域をターゲットにするとよいという構想を述べ、薄膜の場合にはX線導波路現象を用いたユニークな解析法も適用可能であることを示した。武田全康(原研)は、国内外におけるこれまでの中性子反射率法の研究状況、特にKENS の反射率計PORE を用いた研究事例を総括し、KENS の数100倍もの大強度パルス中性子が得られるJ-PARCにおいては、quick 型測定も視野に入れる必要があると述べた。
谷克彦(リコー)は、実材料の薄膜解析においては、層構造にとどまらず化学状態に着目することが重要であると指摘し、反射率法のレイアウトのままで入射X線のエネルギーを変化させる反射率XAFS法の研究事例をもとに、そのquick 化が強く望まれていると報告した。奥田浩司(京大)は、2次元検出器を用い、また角度走査も行わない技術であることから GISAXS がquick 型の反射率技法として先行している状況を報告し、どのような情報を得たいかによってダイナミックレンジの異なるII-CCDやイメージングプレート等の既存の検出システムを使い分けることが現時点でのソリューションであると述べた。
本シンポジウムは、PF懇談会・X線反射率ユーザーグループのメンバーが中心になって開催された。今後も同種の研究会が連続企画される予定であるので、関心のある読者は、ホームページ(http://www.nims.go.jp/xray/xr/)を参照してほしい。
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