2008年1月10日

日本MRSシンポジウムのサマリ

昨年、12/9~10 に開催された日本MRS学術シンポジウムのセッションG「X
線・中性子による埋もれた界面の解析 - 微小領域分析およびquick 計測によ
るナノサイエンス・テクノロジーへの展開に期待する」のサマリをお届けします
(これは学会事務局より、日本MRSニュースに掲載するから、ということで用
意したものです)。

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ナノ材料科学では、何がしかの物質によって覆われた「埋もれた界面」を扱う必
要があり、X線・中性子による非破壊的な解析手法(特に反射率法および
GISAS,GID 等周辺関連技術)の活用が重要である。本セッションでは、解析技術
の高度化をキーワードとして関連研究の発表を募り、その将来像を議論した。

プログラムは、12月9日(日)の午前中にポスター(29件)、午後に口頭講
演(13件)の合計42件(前年より8件増)から構成され、朝から夕方までま
る1日討論に集中することができた。ポスター発表は、4Fギャラリーにて当セッ
ション関係をまとめる形で実施され、全ポスターをまわって討論を行うこともで
きる好適な環境条件であったように思う。大学院生や若手研究者主体の発表が多
く、どのポスターでも活発な討論が行われていた。口頭講演は、反射率法等の技
術の一層の拡張・発展をめざす話題(GISAS、中性子利用、モデルフリー解
析、位相問題等)を中心に、全講演を招待講演とした。J-PARC のスタートを間
近に控え、清水裕彦氏(KEK)、鈴木淳市氏(原子力機構)による中性子の先
進的な要素技術と利用研究への応用に関わる講演は特に有意義であった。また、
高橋敏男氏(東大物性研)、田尻寛男氏(JASRI)による表面のホログラフィー
や位相問題に関連する講演は大いに関心を集め、活発な質疑応答が行われた。他
方、午後半日に13件では窮屈であり、質問やディスカションの時間はかなり不
足した。結果的に30分以上延び、終了は午後6時10分になった。会場外に掃
除の方をお待たせするようなことになり、遠方からの参加者には帰りの時間も気
になるところであったが、最後まで熱気あふれる討論が続いた。

X線・中性子技術は、従来から表面や薄膜・多層膜の界面の解析に有用なツール
として用いられているが、最近では微小領域分析(場所的に均一ではない界面の
研究)やquick 計測(刻々変化する埋もれた界面の研究)の試みも活発であり、
ナノサイエンス・テクノロジーにおいて日々遭遇する unknown の現象や、その
機構に関し、明快な答えを与えようとする機運は大いに高まっている。今後も、
従来技術の延長線上には必ずしもない、常識の枠外にあるようなものも含む思い
切った拡張、高度化が必要であろう。薄膜・多層構造を持つ系の(3次元的な)
特定の部位での界面の議論や、多層構造のなかの特定の界面のみに sensitive
な計測等、知恵を絞らなくてはいけない課題は多くある。既に先駆的な研究の試
みもあるが、一層の高度化とともに、多くの興味深い物質・材料への応用の広が
りを期待したい。

奨励賞については、今回候補となった22件の中から、中村将志氏(千葉大)の
「表面X線回折による Ni(111)-O およびPt(211)表面上の水分子の構造」と久野
啓志氏(京大)の「埋め込まれたInAsナノドットの GI-SAXS を用いた構造解析」
が選ばれた。